調査データから探るインターネット利用の動向
―― インターネットはコミュニケーションを「革命」するか
1.はじめに ~目的と方法
2.インターネット利用者の個人属性 ~現状と動向
3.インターネット利用状況の概観
4.インターネット利用と個人属性の関連
5.インターネット利用の経年的変化
6.結論 ~分析結果の整理と考察
註 / 参考文献 / Abstract
要 約
本稿では、複数の調査データを用いて、日本におけるインターネット利用の現状とこれまでの変化の動向を把握し、それに基づいて今後の利用動向に関する推測を行う。主に焦点をあてるのは、WWWおよび電子メールの利用と「電子コミュニティ」への参加状況である。2000年3月に行われた全国規模の調査Aのデータからは、インターネット利用者が非利用者に比べて男性・若年・高学歴・高年収に偏っていること、WWW・電子メールのいずれについても毎日利用者は半数以下であること、電子コミュニティへの能動的参加者は4人に1人程度であることなどの知見が得られた。また、調査Aデータの詳細分析と、過去の複数年次にわたって行われた調査Bの経年的データの分析によれば、今後の動向として、WWWおよび電子メールの利用については活発化する方向への推測が支持されたが、インターネット利用者における電子コミュニティへの参加率あるいは情報縁の保持率についてはむしろ低下する可能性のあることが示唆された。
1.はじめに ~目的と方法
「IT革命」。これが今を象徴する最も有力なキーワードであることに、およそ異論は起こるまい。二〇世紀末、情報技術はまさに革命的な展開をみせた。その申し子とも言うべき存在がインターネットである。こうした情報技術の革新にともない、私たちの生活・社会にも「革命」的な変化が生じつつある、という声もまた喧しく聞かれるところだ。
しかし、はたして実際に「革命」と称するほどの劇的な変化が、その技術を利用する人間や社会の側でも進みつつあるのだろうか?この疑問が本稿の出発点である。
あえてこのような問いを立てたのには、大きく二つの理由がある。第一に、いわゆる技術決定論の陥穽である。情報技術のもたらす社会的影響が論じられる際には、しばしば技術面の変化とそれによる社会面の変化が短絡的に重ね描かれる(佐藤[1996])。インターネットの場合でいえば、例えば、双方向・多対多の情報伝達が可能な技術特性をもってして、双方向型コミュニケーションの活発化や電子コミュニティの拡大(ひいては一方向型のマスメディアの衰退)などの社会的変化を予測するような議論がそれにあたる。だが、近年のメディア史研究は、技術的可能性が必ずしも社会的実現に直結するわけではなく、社会の側からもその可能性を選びとっていく作用があること、そして、そうした相互作用の中で情報技術の社会的布置が定まっていくことを明らかにしてきた(水越[1999])。この見地に立てば、現在いくら技術的には「革命」が進みつつあるにせよ、それがそのまま社会的にも「革命」を引き起こすとは限らないことになる。
第二に、「木を見て森を見ず」の陥穽が挙げられる。新奇な技術が社会に登場したとき、私たちはその先端的利用層、すなわちイノベーターやヘビーユーザーに視線を奪われがちだ。彼ら彼女らの姿はまた、その技術が大衆化していったときの人々の姿を映し出しているようにも思える。実際、インターネットなどの普及による社会の行方が論じられるときには、ジャーナリズム・アカデミズムの場を問わず、こうした先端層の姿がしばしば取り上げられる。そこから得られる知見もまた重要ではあるが、そのやり方には一定の限界がある。イノベーターやヘビーユーザーはあくまで特殊な一部であり、必ずしも全体の動向を代表しているわけではない。これらの人々の間では「革命」的変化が生じていても、フォロワーやライトユーザーは異なる傾向を有しており、そちらの方が全体の動向を左右する可能性も十分に考えられよう。例えば、二〇世紀初頭の無線技術はそのイノベーターたちにとって「遠く離れた仲間とインタラクティブなコミュニケーションをおこなうためのメディア」であり、その「夢は、地球全体を無線で覆いつくすことによって…ネットワークを形成し、それによって民主主義社会を発展させていこう」という「インターネットのビジョンと基本的に同じ」ものであった。だが、結果的に無線技術はラジオという受け身一方のメディアに転化した形でフォロワーに受容され、それが以降の趨勢を決定づけたのである(水越[1999:pp.50-59])。
本稿では以上のような問題意識に基づき、筆者の関与した複数の調査データから、インターネット利用者の全体像を見渡しつつ、その利用実態を分析していく。分析に際しては、特に次の三つの利用軸に照準する。(1)インターネットがその普及を一般層に拡げていく際の動因となったWWWの利用、(2)それと並ぶインターネット利用の二本柱である電子メール、(3)電子掲示板(BBS)・ネットニュース(ニュースグループ)・チャット等の電子コミュニティへの参加およびオンライン上での対人関係──いわゆる「情報縁」──の拡大状況、である。
(1)が「ホームページを見る」「読む」という言い方からして、雑誌などの既存マスメディアの受け身的な利用行動に、(2)が郵便や電話などの既存通信メディアの利用行動に類比しうるのに対し、(3)はCMC技術の登場後に注目されるようになった新しいタイプのメディア利用行動と言える(もっともそれは先にふれたアマチュア無線などの存在を無視して初めて言える「新しさ」ではあるが)。むろんWWWや電子メールを単純に既存メディアと等置して考えるわけにはいかないが、インターネットが個人や社会に何かしら新しい変化をもたらすとすれば、そのような影響を及ぼすポテンシャルは既存的性格の強い(1)(2)よりは(3)の方が大きいものとみなせよう。これらのポテンシャルが現在どのくらい現実化しているか/今後現実化していくかを測量することが、本稿の目的である。
分析には次の二通りの調査データを用いる。一つは2000年に東京大学社会情報研究所の行った「日本人の情報行動調査」であり、これには、日記式と質問紙式により情報行動や機器所有の状況を網羅的に把握した一次調査(以下、調査A-1と呼ぶ)と、インターネット利用者に限定してその利用行動等を詳細に把握した二次調査(調査A-2と呼ぶ)の2種類が含まれる。もう一つは、同研究所が1996~98年にかけて行った「インターネット個人加入利用者調査」であり、各年次3回分の調査データが分析できる(調査B-96、B-97、B-98と呼ぶ)。それぞれの調査の対象・方法等の概要は以下の通りである。また、調査Aの結果の一部は橋元ほか[2001]にまとめられており、包括的な調査結果は東京大学社会情報研究所[2001]に報告されている。調査Bについての詳細は、橋元ほか[1996][1997][1998b]を参照されたい。
- 調査A-1:
- 全国13~69歳を対象、層化二段無作為抽出、訪問留置法、2000年3月実施、2017票を回収(回収率67.2%)
- 調査A-2:
- 調査A-1において「インターネットを現在利用している」と回答した493名を対象、訪問留置法、2000年4月実施、271票を回収(回収率55.0%)
- 調査B-96:
- 商用プロバイダ「ASAHIネット」個人加入者を対象、無作為抽出、郵送留置法、1996年7月実施、533票を回収(回収率35.5%)
- 調査B-97:
- 対象・調査法は同上、1997年7月実施、659票を回収(回収率23.1%)
- 調査B-98:
- 対象・調査法は同上、1998年9月実施、1043票を回収(回収率26.1%)
インターネット利用の現状が紹介される際には、WWW上で行われた調査の結果が引かれることも多いが、そうしたオンライン調査では回答者にヘビーユーザーが多いなどの偏りがみられることが指摘されている(橋元ほか[1998a])。それに対し、これらの調査はいずれも無作為抽出により郵送法・訪問留置法で行われており、社会統計学的な信頼性が高い。特に調査Aは全国規模の調査であり、これに比肩しうる規模と信頼性の調査は郵政省[2000]や日本インターネット協会[2000]のものが認められる程度である。ただし、これらの調査結果は専ら単純集計レベルの報告しかなく、本稿のような詳細な分析による知見は得られていないことを予め断っておく。
2.インターネット利用者の個人属性 ~現状と動向
現在のインターネット利用者には、性別・年齢・学歴などの社会属性の面で、一定の偏りがみられる。次節以降の議論の前提として、まずその特徴を調査A-1の結果から確認しておこう。
この調査では回答者2017名中、インターネットの利用者は493名、非利用者は1523名であった(当該設問への無効回答1名)。以下、利用者と非利用者の比較結果は原則的にそれぞれこのサンプル数を100%として記述する。なおグラフでは図示の便宜上、各々の該当設問への無効回答を除くサンプル数を100%としているため、必ずしもこの限りではない。また、本節で記述する利用者・非利用者の属性比較については、すべて適当な統計学的検定により5%水準以上の有意差が示されているが(ほとんどは0.1%水準)、その詳細の記述は煩雑化を避けるため割愛する。
まずは性別について。男女比のアンバランスは縮小しつつあると言われるが、依然として男性が相対的に多いことに変わりはなく、インターネット利用者の61.3%を男性が占めている。
年齢の面ではやはり若い者が多く、平均年齢は34.3歳である(非利用者は44.1歳)。特に、図1にみられるように、20代~30代の構成比が高く、50代以上が少ないことが特徴である。
図1 インターネット利用者/非利用者の年齢
学歴も高く、図2の通り、インターネット利用者では大卒以上が4割近くを占める。これは高等教育の大衆化後に生まれた若年層が利用者に多いせいもあるが、20~39歳に限って比較しても、利用者(N=257)のうち大卒以上は38.1%、それに対して非利用者(N=405)では15.6%にとどまる。
図2 インターネット利用者/非利用者の学歴
就業状況の面では、フルタイム就業者の多いことが特徴である(利用者62.5%・非利用者43.2%)。さらに、その仕事内容にも大きな違いがあり、図3に示されるように、利用者には管理職・事務職・専門技術職*1が多い、つまりホワイトカラーの比率が高い。勤務先も大企業が多く、インターネット利用者(フルタイム就業;N=308)で勤務先従業員数が1000人以上の者は16.9%、非利用者(フルタイム就業;N=658)の場合は5.6%である。また、経済的にも富裕層が多く、世帯年収800万円以上の占める割合は、非利用者23.7%に対し、利用者では37.1%に上る*2。
図3 フルタイム就業者におけるインターネット利用者/非利用者の職種
以上を一言でまとめるなら、インターネット利用者には「社会的強者」が多い、ということだ。いわゆるデジタル・ディバイドの問題が示されているわけだが、しかし今後もインターネット人口が増え続ければ、こうした社会属性の偏りは消えていくことが予想されよう。実際、これまでの時点でもいくつかの面ではその方向への動きが現れている。次に、調査A-2のデータから、そのことを簡単に確認しておきたい。この調査はインターネット利用者を対象に行われたもので、利用開始時期に関する設問が含まれている。それをもとに、回答者を早期採用者(1998年10月以前に利用開始;N=138)と後期採用者(1998年11月以後;N=130)に分け、社会属性の比較を行った。その結果を早期→後期採用者という形で列記していく。
女性の比率は28.3% → 53.1%へ増加。利用開始時の年齢は、平均31.4歳 → 30.7歳とほぼ横ばいで、有意差はない(t検定でp=.62)。学歴は大学・大学院卒が45.7% → 23.8%へ減少、フルタイム就業者の割合も70.3% → 46.9%に減っている。世帯年収はやや低下ぎみで、例えば800万円以上の層の割合は39.1% → 32.3%に減っているが、全体的にみると有意な差には至っていない(世帯年収8カテゴリーをもとにしたWilcoxonの順位和検定でp=.85)。
小括すれば、最近インターネットを利用し始めた層には、女性・低学歴・非フルタイム就業者が多いということであり、これらの点では偏りが縮小しつつあることがみてとれる。しかし一方、年齢や経済状況の「壁」は未だ大きいと言えそうだ。
3.インターネット利用状況の概観
では、本題のインターネット利用の現状分析に取りかかろう。
調査A-1では、5年前の調査*3と同じく、平日2日間の情報行動・生活行動等を15分刻みで日記式に回答させているが、今回新たにインターネットの利用行動を記入する欄が設けられた。その結果によれば、インターネット利用者における総利用時間は一日あたり平均34.8分で、内訳は「WWWを見る」12.6分、「電子メールを書く・読む」17.6分、「その他」4.6分となっている*4。つまり、WWWと電子メールがインターネット利用総時間の9割近くを占めるということだ。また特筆すべきは、この2日間に利用行動の記入がなかったインターネット利用者が52.9%と半数を超えることである。これは、記入を求めた2日間がいずれも平日のため、休日に特化した利用が把握できないこと、10分未満の行動は記入を求めなかったことによるところもあろうが、いずれにせよこの数値は、毎日それなりの時間をインターネットに費やすような利用形態がむしろ少数派であることを物語っている。その点で、ヘビーユーザーの利用像をもとにした議論はやはり全体の動向を見誤る危険性──「木を見て森を見ず」──が高いことを改めて強調しておきたい。
次に、より詳細な状況を調査A-2のデータからみていこう。WWWと電子メールの利用頻度を図4に示す。いずれも毎日利用する者は4割内外で、やはり多数派には至っていない。
図4 WWWへのアクセス・電子メール送受信の頻度
つづいて、これらを私用で使うか仕事で使うかをたずねた結果が図5である(それぞれ先の利用頻度で「しない」と答えた者はこの設問から除外)。いずれも私用派が7割を占めており、私的利用の色合いが強い*5。これは、別途設問した「ふだん最もよくインターネットにアクセスする場所」の回答が自宅64.2%・職場23.6%であったこととも符合する結果であった。
図5 WWW・電子メール利用に関する私用目的/仕事目的の別
電子メールについては、単に私用・仕事の別だけでなく、7つの選択肢からメールの発信目的を複数回答させているが、その上位3項目は「私的な用件連絡」54.8%、「友人との特に目的のないやりとり」48.2%、「仕事上の連絡」36.4%であり、ここからも私用性の強さがうかがえる。また、2位のコンサマトリー(自己充足的)な利用率の高さも注目に値する点だろう。
こうした利用目的の傾向は、WWW・電子メールの利用から得られた効用の面にも相対的に反映しており、図6にみられるように*6、生活や趣味の上での効用を挙げる割合は仕事上の効用より概して高い(いずれも「非常にあてはまる」「ややあてはまる」を合わせた値)。
図6 WWW・電子メール利用の効用
さらにここで注目したいのは、「新しい人との交流が広がった」という項目である。WWW・電子メールのいずれかについてこの効用を挙げた者は全体の23.2%*7、つまり、インターネットで新たな対人関係を得た者は4~5人に1人という計算になる。また、別の設問で電子メールをやりとりする相手にインターネットで知り合った人がいると答えたのは19.6%であった。こうした「情報縁」を拡げた者の割合を大きいとみるか小さいとみるかは立場によって意見が分かれようが、現状では少なくとも4分の1以下の相対的少数派であるのは確かだ。
その点に関連して、「電子コミュニティ」*8への参加状況をみたものが図7である。電子掲示板の利用率が4割弱、チャット・ネットニュースがいずれも2割、メーリングリストが1割半となっている。ただし、概して自分から書き込みも行うような能動的参加は少なく、読むだけの受動的参加が多数派を占める。全体的にみると、いずれかに参加している者は50.2%に上るが、うち能動的参加者は24.4%で、残りは基本的にWWWを読むのと同型の受け身的な利用者である。
図7 電子掲示板・チャット・ネットニュース等の利用状況
最後に、これまでの概観からとりこぼしたポイントを一つ拾い上げておこう。ホームページの開設状況である。その保有率は6.3%、うち3.0%はほとんど内容の更新を行っておらず、ホームページによる情報発信はあまり活発とは言い難い。インターネットは不特定多数への情報発信の手段をマスメディア産業の寡占から個人に開いたともよく喧伝されるが、少なくともこの現状をみる限りその点がさほど人々を惹きつけているとは思えない。
以上、インターネット利用の全体状況を俯瞰してきた結果を整理しておく。利用の二本柱であるWWWと電子メールですら毎日恒常的に利用する者は半数に満たない。情報縁の開拓・電子コミュニティへの積極参加・ホームページの開設など、インターネット独自のメディア特性を活かした利用──1節で述べた社会的変化を促すポテンシャルの高い部分──はさらに低調な状態にある。技術決定論者が夢見るほど、インターネットは「革命」的な利用状況を人々にもたらしてはいないと言っていいだろう。技術の「夢」と社会の「現実」。その懸隔がここに示されている。
4.インターネット利用と個人属性の関連
このような現状をおさえた上で、次に、今後の利用動向を探る作業に移りたい。それには二つの方法が考えられる。一つは、これまでにインターネットの利用がどう変化してきたか、つまり過去の経年的変化の延長線上に今後の動向を探るやり方である。この分析は行論の都合上、次節で行う。もう一つは、これから新たにインターネットを利用し始める人口層の間でどのような利用が広がっていくかを、現利用者における社会属性と利用行動の関連から探るやり方である。例えば、現利用者において女性は男性よりWWWの利用が不活発で、電子メールの利用は活発という傾向があるとすれば、今後予想される女性利用人口の拡大にともない、WWW利用は低迷し、電子メール利用は伸長するという推測が成り立つだろう。そのための分析を本節で行う。これら二通りの分析から得られた知見を組み合わせることで、今後の動向を立体的に浮かび上がらせようというのが最終的なもくろみである。
さて、今後インターネットの普及が新たに進む人口層の社会属性はすでに2節において判明している。したがって本節の課題は、利用行動と属性との関連を明らかにすることにある。
調査A-2のデータをもとに、まずはWWWの利用頻度と諸属性との関連をみていこう。性別では男性の方が利用頻度が高く(Wilcoxon検定でp<.001の有意差)、年齢・年収とは無相関、学歴とは正の相関が認められた(Spearmanの順位相関係数でρ=.19、p<.01)。就業状況はフルタイム就業か否かで比較したが、有意差はみられなかった。また、社会属性ではないが、重要な関連要因の一つと思われるインターネットの利用開始時期との間には負の相関が示された(ρ=-.21、p<.01)。つまり、早期採用者ほど利用頻度が高いということだ。
これらの諸属性は、言うまでもなく、相互に絡まりながら複合的に利用頻度に関連しており、上のような個々の傾向は他の属性要因によって媒介された見かけ上の関連にすぎない可能性もある。そこで、その複合的な関連傾向を検討するために、WWW利用頻度を従属変数とし(毎日利用を1/それ以下を0)、諸属性を独立変数として一括投入したロジスティック回帰分析を行った*9(性別は男を1/女を0、就業状況はフルタイムを1/それ以外を0とした)。その結果を表1に示す。なお、表中の偏回帰係数は独立変数に標準化を施して求めた値(標準化係数)である。
表1 WWW利用頻度と利用者属性との関連
[N=233] | 偏回帰係数 | (有意確率) |
性 別 | .25 | (p=.11) |
年 齢 | -.17 | (p=.28) |
学 歴 | .28 | (p=.07) |
就業状況 | -.24 | (p=.14) |
世帯年収 | -.06 | (p=.68) |
利用開始時期 | -.30 | (p=.04) |
[判別的中率66.1%,p=.02] |
これをみると、WWWの高頻度利用につながる関連要因としては利用開始時期(早期採用)が有力であり、また有意水準を10%に広げるなら、学歴(高学歴)が次点候補に加えられよう。
次に、電子メールの利用頻度について。性別ではやや男性の利用頻度が高いが、際立った差ではない(p=.09)。年齢・年収とは無相関、学歴とは正の相関が認められた(ρ=.20、p<.01)。就業状況による差はなく、利用開始時期とはやはり負の相関がみられた(ρ=-.25、p<.001)。これらについて先と同様にロジスティック回帰分析を行った結果が表2である。ここでも、学歴(高学歴)と利用開始時期(早期採用)が電子メールの高頻度利用につながる有力要因とみなしうるだろう。
表2 電子メール利用頻度と利用者属性との関連
[N=235] | 偏回帰係数 | (有意確率) |
性 別 | -.01 | (p=.93) |
年 齢 | -.16 | (p=.32) |
学 歴 | .38 | (p=.01) |
就業状況 | -.23 | (p=.14) |
世帯年収 | -.05 | (p=.75) |
利用開始時期 | -.55 | (p=.00) |
[判別的中率63.8%,p=.00] |
「情報縁」の保持については、個々の関連で5%水準の有意差が認められた属性はなく、複合的な関連傾向を探るためのロジスティック回帰分析でもモデルは有意水準に達しなかった(p=.11)。
「電子コミュニティ」への参加に関しては、次のような関連傾向が認められた。性別では、能動的参加者・受動的参加者ともに非参加者に比べて男性が多い(χ2検定でp<.01)。平均年齢は、非参加者34.6歳・受動的参加者34.9歳に対し、能動的参加者が29.4歳と若い(分散分析でp<.01)。学歴にはあまり差がなく(学歴スコアに対するKruskal-Wallis検定でp=.09)、年収についても有意差はない(p=.76)。就業状況については、受動的参加者にフルタイム就業が72.9%と多く、能動的参加者・非参加者ではそれぞれ50.0%・55.6%に止まる(全体でp<.05の有意差)。インターネット利用開始時期は、能動的参加者→受動的参加者→非参加者の順に早く、平均は1997年6月→97年11月→98年11月である(一元配置分散分析でp<.001の有意性)。
つづいて表3に、〈参加/非参加〉と〈能動的参加/それ以外〉をそれぞれ従属変数として行ったロジスティック回帰分析の結果を示す。能動的か受動的かを問わないとすれば、電子コミュニティへの参加に結びついているのは、性別(男性)・年齢(若年)・利用開始時期(早期採用)の3属性である。ただ、さらに能動的参加にまでつながる関連要因となると、そこから性別が落ちる。
表3 「電子コミュニティ」への参加と利用者属性との関連
[N=271] | 参 加 | 能動的参加 | ||
偏回帰係数 | (有意確率) | 偏回帰係数 | (有意確率) | |
性 別 | .31 | (p=.05) | .04 | (p=.81) |
年 齢 | -.43 | (p=.01) | -.71 | (p=.00) |
学 歴 | .19 | (p=.22) | .16 | (p=.39) |
就業状況 | -.03 | (p=.87) | -.19 | (p=.34) |
世帯年収 | -.06 | (p=.68) | .04 | (p=.83) |
利用開始時期 | -.77 | (p=.00) | -.68 | (p=.00) |
[判別的中率65.5%, p=.00] | [判別的中率78.3%, p=.00] |
なおホームページ保有に関する分析は、保有者17名と詳細な分析に耐えないため省略する。
以上、表1~3に示された分析結果を、利用者属性の面からまとめなおしておこう。
- 性別(男性)…電子コミュニティへの参加に関連
- 年齢(若年)…電子コミュニティへの参加および能動的参加に関連
- 学歴(高学歴)…WWWの高頻度利用にやや関連、電子メールの高頻度利用に関連
- 就業状況…いずれにも無関連
- 世帯年収…いずれにも無関連
- 利用開始時期(早期採用)…すべてに関連
5.インターネット利用の経年的変化
前節の分析結果からわかるように、インターネットの利用開始時期は、WWW・電子メールの利用、「電子コミュニティ」への参加、そのいずれにも関連する最も大きな要因である。早期の利用開始がこのようにすべての面で活発な利用に結びついている理由には、二通りの可能性が考えられる。一つは、早期採用者の特性による効果である。イノベーターはフォロワーとは社会心理的性格などの面で異なる特徴を有する。その違いが活発な利用に結びついているのかもしれない。もう一つは、利用開始からの経過期間の効果である。時間を経るにつれてインターネットの扱いにも慣れ、その魅力の理解が深まることで、利用が活発化するのかもしれない(もちろん理路の上では、逆にインターネットに飽きて利用が不活発化することも考えられるが)。
これらの効果───「採用時期効果」と「経過期間効果」と呼ぶことにする──が、それぞれどの程度インターネット利用の活発さに結びついているか?その次第によって今後の動向は大きく変わってくる。例えば、仮に採用時期効果がほとんどなく、専ら経過期間効果によるところが大きいとすれば、今後インターネット利用はあらゆる面で活発化していくだろうと予測されるが、逆だとすれば反対に不活発化が予測されることになる。
しかし、単年次の調査データでは、これらの効果を区別して分析することができない*10。そこで本節では、1996~98年の複数年次にわたって行われた調査Bのデータを利用して、採用時期効果と経過期間効果の測量を試みることにしたい。
分析に用いるデータのサンプル構成は次の通りである。調査B-96の回答者で1995年6月~96年5月(調査時点の13~1ヶ月前の1年間)にインターネットの自宅利用を開始した者448名(サンプルS95#1とする)。調査B-97の回答者で同期間内に利用を開始した285名(S95#2)、および96年6月~97年5月の利用開始者259名(S96#1)。調査B-98の回答者でこれらの期間内に利用を開始した者、各287名(S95#3)と297名(S96#2)、および97年8月~98年7月の利用開始者215名(S97#1)。以上のサンプル構成をマトリクス化して示すと表4のようになる。
表4 調査Bにおける分析対象のサンプル構成
96年調査 | 97年調査 | 98年調査 | |
95年採用者 | S95#1 | S95#2 | S95#3 |
96年採用者 | - | S96#1 | S96#2 |
97年採用者 | - | - | S97#1 |
このマトリクスの対角線上にあるサンプルS95#1・S96#1・S97#1は、採用(利用開始)からの経過期間が等しいため、それらを比較することによって採用時期効果をとりだすことができる。一方、水平線上にあるサンプルS95#1・S95#2・S95#3あるいはS96#1・S96#2は、採用時期が等しいため、これらの比較からは経過期間効果をとりだしうる。
では、WWW利用の分析からとりかかろう。その利用頻度スコア(「日に数回以上」~「月1回以下」を4~0点として尺度化)を、先のサンプル・マトリクスにしたがって示したものが表5である。対角線上にS95#1→S96#1→97#3の変化を追っていくと、2.46→2.21→2.20点と利用頻度が低下している様子がうかがえる(Kruskal-Wallis検定により全体でp<.01の有意差)。一方、水平線上の変化は、S95#1→#2→#3をみると2.46→2.58→2.74点に(p<.01)、S96#1→#2も1.95→2.65点と(Wilcoxon検定によりp<.05)、いずれも単調増加の傾向を示している。つまり、採用時期効果はWWWの利用頻度の減少に、経過期間効果は増加に結びついているということだ。
表5 WWW利用頻度スコア
96年調査 | 97年調査 | 98年調査 | |
95年採用者 | 2.46 | 2.58 | 2.74 |
96年採用者 | - | 2.21 | 2.42 |
97年採用者 | - | - | 2.20 |
これらの関連度の相対的な大きさを比較するために、全サンプルを対象とし、個々のサンプルの採用時期と利用経過期間、加えて利用者の社会属性(性別・年齢・学歴*11)を独立変数としたロジスティック回帰分析(毎日利用を1、それ以下を0)を行った結果が表6である。これによると、採用時期効果よりも経過期間効果の方が、標準化係数は大きな絶対値を示している。つまり、採用時期効果による利用頻度の減少分よりも経過期間効果による増加分が相対的に大きい──相殺分を考慮しても今後WWWの利用頻度は増加していくことが予想される──ということである。
表6 WWW利用頻度と採用時期効果・経過期間効果の関連
[N=1752] | 偏回帰係数 | (有意確率) |
性 別 | .25 | (p=.00) |
年 齢 | -.16 | (p=.00) |
学 歴 | .02 | (p=.63) |
採用時期効果 | -.15 | (p=.01) |
経過期間効果 | .26 | (p=.00) |
[判別的中率60.1%, p=.00] |
次に、電子メールの利用頻度スコアをサンプル・マトリクスにしたがって示したものが表7である。対角線上の変化をみると、S95#1は2.13点、とS96#1は1.95点とほぼ横ばい傾向にあるものの、S97#1にかけて2.46点と利用頻度が高くなる(全体でp<.001の有意差)。これは電子メールの普及にともない、やりとりできる相手が見つかりやすくなったことによる影響が考えられる。一方、水平線上の変化を追ってみると、S95#1→#2→#3は2.13→2.38→2.75点に(p<.001)、S96#1→#2は1.95→2.65点に(p<.001)、いずれも単調増加している。つまり、電子メールに関しては採用時期効果・経過期間効果ともに利用頻度の増加に結びついているということだ。
表7 電子メール利用頻度スコア
96年調査 | 97年調査 | 98年調査 | |
95年採用者 | 2.13 | 2.38 | 2.75 |
96年採用者 | - | 1.95 | 2.65 |
97年採用者 | - | - | 2.46 |
これらの効果について、WWWの場合と同様の回帰分析を行った結果が表8である。ここに示される通り、経過期間効果の標準化係数値の方が採用時期効果よりかなり高い。したがって、今後の動向としては、主に経過期間効果による利用頻度の底上げが予想できることになる。
表8 電子メール利用頻度と採用時期効果・経過期間効果の関連
[N=1750] | 偏回帰係数 | (有意確率) |
性 別 | -.13 | (p=.01) |
年 齢 | -.31 | (p=.00) |
学 歴 | .28 | (p=.00) |
採用時期効果 | .08 | (p=.13) |
経過期間効果 | .43 | (p=.00) |
[判別的中率61.3%, p=.00] |
「電子コミュニティ」関連で、調査Bから利用動向を把握できるのはネットニュースのみである。その利用率(「読む」または「投稿する」)をみると、採用時期S95#1→S96#1→97#3では32.4→27.4→26.0%とやや減少傾向にある(χ2検定でp=.17のため有意ではない)。経過期間S95#1→#2→#3では32.4→34.7→33.1%(p=.80)、S96#1→#2では27.4→22.9%(p=.22)と、横ばいである。したがって、少なくともネットニュースに関しては、今後も利用率の上昇は期待できまい。
「情報縁」についても、状況は似たようなものだ。インターネット上でやりとりをする相手に「オンライン上で知り合った」者が含まれる割合は、採用時期S95#1→S96#1→S97#1でみると14.7→10.4→15.3%とほぼ横ばい傾向にある(p=.20)。経過期間S95#1→#2→#3では14.7→11.6→11.8%とこれも横ばい(p=.36)、ただしS96#1→#2では10.4→21.5%に増加しているが(p<.01)、総合的にみれば情報縁を保持する者の比率が急速に高まっていくとは思えない。
ホームページ保有の動向に関しては、採用時期S95#1→S96#1→S97#1でみると16.8→13.5→8.1%と単調減少の傾向にあるが(p<.05)、経過期間S95#1→#2→#3では16.8→22.8→25.2%(p<.05)、S96#1→#2では13.5→22.6%(p<.01)といずれも増加している。
最後に、これら情報縁とホームページ保有に関するロジスティック回帰分析の結果を、表9に掲げておこう。情報縁については採用時期効果は言うまでもなく、経過期間効果の係数値をみてもやはりさほど今後の活発化は期待できそうにない。ホームページについては、経過期間効果の係数の絶対値が採用時期効果を上回っているため、総体的には開設率の増加が予想できる。
表9 「情報縁」・ホームページ保有と採用時期効果・経過期間効果の関連
[N=1766 / 1722] | 「情報縁」 | ホームページ保有 | ||
偏回帰係数 | (有意確率) | 偏回帰係数 | (有意確率) | |
性 別 | .28 | (p=.00) | .16 | (p=.03) |
年 齢 | -.34 | (p=.00) | -.32 | (p=.00) |
学 歴 | -.16 | (p=.02) | .08 | (p=.25) |
採用時期効果 | -.03 | (p=.75) | -.17 | (p=.03) |
経過期間効果 | .13 | (p=.09) | .29 | (p=.00) |
[判別的中率85.6%,p=.00] | [判別的中率81.3%,p=.00] |
6.結論 ~分析結果の整理と考察
以上の分析から得られる結論は、きわめて地道なものである。技術決定論者の思い描くほどの「革命」的変化をインターネットは未だ人々の上にもたらしていない、ということだ。3節で報告したように利用者における一日の平均利用時間は30分程度である。例えばテレビの場合、現在のインターネット普及率──調査Aによれば世帯普及率24.1%・個人利用率24.4%──とほぼ同じ世帯普及率23.6%*12を達成した年の翌年に行われた調査(NHKによる1960年の国民生活時間調査)によれば、保有世帯の平均視聴時間は2時間以上に達している(阿部・辻[1997])。この点をみても、インターネットは未だテレビほどのインパクトを人々に及ぼしていないと言えよう。
その利用内容の面でも、既存メディアと類比的に考えうるWWW・電子メールの利用に比べ、社会的変化を促すポテンシャルがより高い「電子コミュニティ」への参加や「情報縁」の開拓、あるいはホームページの開設は、相対的に低調な状況にあった。
また2節でみたとおり、今後は、インターネット利用者に女性が増え、年齢層が高齢化の方向へ底上げされ、大卒未満の学歴層が増えると予想されるが、4節の分析結果に示されているように女性・高齢者は電子コミュニティへの参加が不活発な状況にある。したがって、女性・高齢者の増加は電子コミュニティへの参加を低調化する方向に作用するものと考えられよう。また、高学歴とWWW・電子メールの高頻度利用とのむすびつき(4節)からすれば、今後のインターネット利用者の低学歴化はWWW・電子メール利用を不活発化させる要因となることが予想される。
ただし、5節での分析結果によれば、WWW利用については経過期間効果による底上げが、電子メール利用についても採用時期効果と経過期間効果による底上げが見込めるため、少なくとも最終的には活発化へ向かうものと考えられる。しかし、電子コミュニティへの参加や情報縁の拡大については、いずれの効果もさして期待できないため、今後も活発化に向かうとは考えにくい。新たにインターネット利用者となる人口層の属性効果を考えれば、電子コミュニティへの参加率・情報縁の保持率は(絶対人数はともかくとして)むしろ現状より低下する公算の方が大きい。
むろん、本稿とは別の観点を導入すれば、電子コミュニティや情報縁が拡大していく可能性を考えられないわけではない。本稿ではあえてWWW・電子メール・電子コミュニティなどを個々独立の利用様態であるかのように扱ってきたが、既存メディアと大きく異なるインターネットの特徴の一つに、それらの利用がシームレスにつながりうる点がある。例えば、WWWが既存マスメディアと同じように専ら受け身一方の利用様態をとるにせよ、興味深いホームページをみてそこに記載されている制作者のアドレスに電子メールを送ったり、関連する電子掲示板やメーリングリストに参加したりすることもあろう。既存マスメディアの場合には、視聴者や読者がこうした形でつながっていく契機が薄いのに対し、インターネットはこの点で電子コミュニティや情報縁の形成を促す大きな将来的可能性を有している、とも考えうる。しかし、それもまたやはり技術的ポテンシャルの話にすぎない。実のところ、筆者は1996年に執筆した論文(公表は翌年)において、当時のインターネット利用の状況を実証的にふまえた上で、そうした可能性があることも指摘しておいた(辻[1997])。それから4年。その可能性は未だ現実化への歩みを進める気配をみせていない。
今後はインターネットへの高速常時接続・低料金定額制の普及が進むだろうし、それによってコストの壁が取り払われ、利用時間は急増するかもしれない。だが、それとともにインターネット上で行われるコミュニケーションのありようも急激に変わるかどうかは疑問である。これまで考察してきたように、インターネットもまた既存メディアの延長線上で人々に受容されている側面が強く、新しいコミュニケーション様態が短期間のうちに拡がる可能性は薄いからだ。インターネットあるいはITによって私たちの生活や社会が大きく変わるとしても、おそらくそれはフランス革命のような年単位の急激な変化ではあるまい。むしろ西垣[2001]の言うように、産業革命のような世紀単位の緩やかな変化としてとらえるべきに思える。現在、「IT革命」「インターネット革命」は前者のスパンで論じられることが専らであり、これに対し本稿では否定的な結論を提示した。今後の私たちに必要とされるのは、この「革命」を後者のスパンにおける緩やかな変化として見据え、落ち着いた目で動向を見極めていくことではないだろうか。
註
- *1. 該当する設問選択肢の表記は次のとおり。「管理職(会社・団体などの課長以上、管理的公務員など)」「事務職(一般事務系・係長以下、記者、編集者、タイピストなど)」「専門技術職(医師、弁護士、教員、技術者、看護婦など)」。
- *2. ただし、この世帯年収に関しては他の設問より無回答者がかなり多い(全体2017名中235名、11.7%が無回答)ことを注記しておく。本文中に記載した%は、無回答者も含めて100%とした数値である。
- *3. この1995年調査の結果は、東京大学社会情報研究所[1997]に報告されている。
- *4. 調査票では「回線をつないでいる時間ではなく、実際に行動を行っている時間」を記入するよう注記してある。また、本文中に記載した「その他」の数値には、アフターコーディング時に再コードしたWWWと電子メールの並行利用時間も含まれているが、平均0.7分とわずかである。
- *5. また、この「ほとんど私用」~「ほとんど仕事」を尺度化して、先の利用頻度との順位相関係数を算出したところ、WWWでρ=-.19、電子メールでρ=-.21の有意な相関が認められた(それぞれp<.01、p<.001)。つまり、仕事目的の色彩が強いほど利用頻度が高いということであり、これは、仕事での利用の場合は必要に迫られるケースが多いことから考えて肯ける傾向と言えるだろう。
- *6. ただし、WWWについては「ウェブを見たり、ホームページを作ったりしたことによって」と設問しているので、図6に示した数値はWWWの閲覧とホームページの開設による効用が混在したものであることを注記しておく。しかし、後述するようにホームページの開設率は1割に満たないため、そのほとんどはWWWの閲覧による効用と考えてよい。実際、ホームページ開設者を除いて再集計してみても、「仕事上で役立った」54.3%、「生活上で役立った」73.1%、「趣味が広がった・深まった」68.9%、「新しい人との交流が広がった」32.9%で、数値はほとんど変わらなかった。
- *7. 念のために注記しておくが、この%は回答者全体271名を母数とするものであり、図6の該当項目(「新しい人との交流が広がった」)に示されたWWW・電子メールいずれの値よりも低いのはそのためである。図6では、WWWを全く利用しない者・電子メールを全く利用しない者を除いて母数(236名・228名)としている。
- *8. 「電子コミュニティ」の定義は論者によってさまざまだろうが、本稿では便宜的に"利用者間で相互にメッセージのやりとりが行われ、そのやりとりが利用者すべてに対して明示される電子的システムの利用集団"と考え、電子掲示板・チャット・ネットニュース・メーリングリストをそうしたシステムの主な例として想定した。
- *9. 以下、表1・2・6・8の分析については、同じ独立変数でWWW/電子メールの利用頻度スコアを従属変数とした重回帰分析を併せて行ったが、基本的に類似した傾向の結果が得られたため記載を割愛した。
- *10. 博報堂生活総合研究所[2000]の調査は、この点を等閑視し、これらの効果を混同した分析を行っている。
- *11. 性別は男性を1、女性を0としたダミー変数を構成。ただし、全サンプルの83.1%が男性と分布に偏りがある点に注意を要する。また、学歴は分布を考慮して「中学・高校卒」「短大・高専等卒」「大学」「大学院」の順に0~3点を与えて尺度化した。就業状況・世帯年収については4節で利用に関連していなかったため省略することとした。
- *12. 経済企画庁調査局の「消費動向調査」による。
文献
- 阿部潔・辻大介 1997 「日本社会における情報行動変容の『これまで』『これから』」、東京大学社会情報研究所(編) 『日本人の情報行動1995』、東京大学出版会
- 博報堂生活総合研究所 2000 『インターネットは平成の神器か』、NTT出版
- 橋元良明・辻大介・福田充・森康俊・柳澤花芽 1996 「普及初期段階におけるインターネットのユーザー像と利用実態」、『東京大学社会情報研究所調査研究紀要』8号、pp.87-197
- 橋元良明・辻大介・福田充・森康俊・柳澤花芽 1997 「インターネット個人加入利用者の実態1997」、『東京大学社会情報研究所調査研究紀要』10号、pp.1-71
- 橋元良明・辻大介・福田充・森康俊・柳澤花芽 1998a 「インターネット利用に関する調査法比較」、『東京大学社会情報研究所調査研究紀要』11号、pp.45-79
- 橋元良明・辻大介・森康俊・柳澤花芽 1998b 「インターネット個人加入者の実態1998」、『東京大学社会情報研究所調査研究紀要』12号、pp.1-67
- 橋元良明・鈴木裕久・川上善郎・石井健一・辻大介・李潤馥 2001 「2000年日本人のインターネット利用に関する調査研究」、『東京大学社会情報研究所調査研究紀要』15号、pp.59-144
- 水越 伸 1999 『デジタル・メディア社会』、岩波書店
- 日本インターネット協会(編) 2000 『インターネット白書2000』、インプレス
- 西垣 通 2001 「IT革命後の社会」、『中央公論』1月号(通巻1400号)、pp.58-73
- 佐藤俊樹 1996 『ノイマンの夢・近代の欲望』、講談社
- 東京大学社会情報研究所(編) 1997 『日本人の情報行動1995』、東京大学出版会
- 東京大学社会情報研究所(編) 2001 『日本人の情報行動2000』、東京大学出版会
- 辻 大介 1997 「『マスメディア』としてのインターネット」、『マス・コミュニケーション研究』50号、pp.168-181
- 郵政省(編) 2000 『平成12年版 通信白書』、ぎょうせい
Abstract
This paper reports the results of two survey researches, concerning the present status and change of the Internet uses among Japanese people. I focus especially on the three forms of Internet use, namely WWW, e-mail and online community. The result of Survey-A carried out across all over Japan in 2000, shows that; There are more male, young, high-educated and high-income among Internet users than non-users. Those who use WWW everyday are less than 40%, and e-mail everyday less than 50%. Active users of online communities are less than 25%.
I make a more detailed analysis on the data of Survey-A and Survey-B, which was carried out in 1996, 97 and 98. The results suggest that WWW and e-mail will be used more than now. But as regards the participation in online communities, the analysis suggests a possibility that in the future it will be relatively less rather than more.
Daisuke TSUJI, 2001
Trends of the Japanese Internet Uses in 2000
JSICR Annual Report 2000, pp.55-70