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コミュニケーションへの認知科学的アプローチ

− 発話の解釈過程とコンテクスト −


辻 大 介


修士論文 / 東京大学大学院社会学研究科 1994年12月提出


■ 目 次
 
1章 コミュニケーション再考
  1節 現代的コミュニケーション観の視角
  2節 コンテクストに対する「語用論」的視座
  (1章の註)
2章 認知科学的コミュニケーション理論
  1節 語用論の認知科学的転回
  2節 発話解釈・認知・コンテクスト
  3節 発話解釈機制における認知的原理
  (2章の註)
3章 発話の諸相とその解釈過程
  1節 会話的含意の解釈過程とコンテクスト
  2節 メタファーの解釈過程とコンテクスト
  3節 アイロニーの解釈過程とコンテクスト
  (3章の註)
4章 コミュニケーション論の新展開に向けて
  (4章の註)
 文献

post script (7 Sep 2001)
 古いパソコンを処分するため、ファイルを整理していたら、むかし書いた修論のデータがでてきた。私の場合、修論には苦い思いしか残っていない。這々の体で提出はしたものの、こんなものしか書けないのか、と絶望的な気分になったことを今でもよくおぼえている。いわばトラウマ的失敗作だ。そのためもあって、この修論に書いたことについては、今では考えが変わっている部分が多い。あまり変わっていないのは、1章1節に書いた問題意識くらいだろうか。何はともかく、この修論の失敗を心に刻み、いつの日かリベンジを果たしたいと思っている。


 本稿の主旨は、コミュニケーション研究に「認知科学」という新しい視角を提出することである。全体の構成を予描しておこう。
 導入部にあたる第1章では、本稿が焦点をあてようとする問題がどこにあるか、その所在を明らかにする。それは従来の支配的なコミュニケーション観の死角にあたる部分であり、そこにはコミュニケーション・メッセージ解釈の“コンテクスト依存性”“階層性”“コンテクスト動態性”と本稿が呼ぶところのものが含まれている。
 第2章では、その死角部分に対し有効な視野を確保しうる理論枠組として、認知科学的な研究アプローチ──特に、関連性理論(Relevance Theory)──をとりあげる。これは1980年代後半に提出された語用理論だが、関係各方面から大きな注目を集め、日本でも徐々に紹介が進みつつある(1)。しかしまた、それとともに、ある種の難解さをもって知られるようにもなってきており、現状では十分に咀嚼された受容がなされているとは言えない。そこで、この章では、コミュニケーション論の観点に拠りつつ、関連性理論のエッセンスのみを取り出し(専門的議論は全て脚註にまわした)、その理論構図を整理してゆく。
 第3章では、前章で提示された理論枠組に基づいて、いくつかの具体的なメッセージ(発話)解釈──会話的含意・メタファー・アイロニー──の過程とその特性について、本稿オリジナルの議論を行う。また同時に、それらの解釈過程について、従来の諸論では説明できなかった点・見落とされていた点を明らかにしていく。
 最後に第4章では、本稿の提出した研究アプローチが従来のコミュニケーション研究のどのような不備を補いうるものであるかを改めて確認し、今後の研究が進められるべき理由を示す。


【註】
1.  主な紹介文献としては、西山[1992a]・今井[1992]・光延[1992]など。日本における関連性理論の現時点での受容は、言語学者(特にChomsky言語学の流れを引く言語学者)を中心としたものになっており、受容・評価のしかたにも特有の偏りがみられる。また、関連性理論に関する最も基本的な著作(Sperber and Wison[1986a])ですら、ようやく昨年(1993年)邦訳が出版されたばかりであり、日本での本格的な受容・展開はこれから進んでいくものと期待される。

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