学会報告「インターネット利用は政治的「知識ギャップ」を拡げるか」

インターネット利用は「知識ギャップ」を拡げるか

辻大介, 2021, 第94回日本社会学会大会 一般研究報告

 
日本社会学会大会@オンライン開催で、11月13日に標記の報告を行ないました。報告用の資料と報告要旨を以下にアップしておきます。

報告要旨

【 1. 目的 】

 インターネットの普及が本格化し始めた21世紀初頭、「デジタルデバイド」をめぐる議論のなかで、P.ノリスはネット利用の目的・様態の違いが政治への市民的参与の格差を拡大再生産していく可能性に着目し、それを「民主主義デバイド democratic divide」と呼んだ(Norris 2001)。この観点はその後のネット研究にも引き継がれ、M.プライアは、その機制・過程をおおよそ次のように論じている(Prior 2007)。
 インターネットのような、自らの興味関心に応じた選択的情報接触が容易な環境では、政治関心の高い者は政治的なニュースや言論により多く接触する“news-seeker”となり、低い者は娯楽的コンテンツを追い求める“entertainment-seeker”への傾斜を強めていくだろう。そのため、政治に関する「知識ギャップ」(Tichenor et al. 1970)が拡がり、政治参与に積極的なアクティブ層と消極的なアパシー層への二極分化が進む。
 こうしたネット時代の「知識ギャップ」仮説の検証は、アメリカを中心に進められてきたが、日本ではいまだ研究事例が少ない。辻(2021)では2019年全国調査データをもとに、その過程の一部を支持する分析結果を提示したが、政治関心・理解の高低がネットでの情報接触の分化を促し、そのことがまた政治関心・理解の差を拡げる、という循環的プロセスの全体については検討できていない。パネル設計のウェブ調査から、この点を検討することが、本報告の目的である。

【 2. 方法 】

 [T1]2018年11月、[T2]2019年12月の2時点にわたって、大手ウェブ調査事業者の登録モニター18~66歳(2019年調査時)を対象にウェブ質問紙調査を実施し、T2時点で2902ケースの有効回答を得た。これを分析対象として、T2時点の〈政治関心・理解〉〈ネットでの社会・政治ニュース接触頻度〉〈ネットでのエンタメニュース接触頻度〉を従属変数、T1時点の同3変数を独立変数、性別・学歴・教育年数を統制変数とした、交差遅延効果モデルにより分析を行なった(従属変数を順序プロビットで回帰、誤差項間に相関を仮定)。

【 3. 結果 】

 T1の〈政治関心・理解〉はT2の〈社会・政治ニュース接触〉に有意な正の効果を示したが、〈エンタメニュース接触〉にはおおむね有意な効果をもたなかった。一方、T1の〈社会・政治ニュース接触〉はT2の〈政治関心・理解〉に対して正の効果を、T1の〈エンタメニュース接触〉は負の効果を、それぞれ有意に示した。

【 4. 結論 】

 これらの分析結果により、ネット利用はもっぱら政治関心・理解の高いユーザにおいて政治的情報への選択的接触を促し、それによってさらに政治関心・理解が高められる可能性――「知識ギャップ」の循環的拡大過程の部分的支持――が示唆された。

 《引用文献》

  • Norris, P., 2001, Digital Divide: Civic Engagement, Information Poverty, and the Internet Worldwide, Cambridge University Press.
  • Prior, M., 2007, Post-Broadcast Democracy: How Media Choice Increases Inequality in Political Involvement and Polarizes Elections, Cambridge University Press.
  • Tichenor, P.J. et al., 1970, Mass media flow and differential growth in knowledge, The Public Opinion Quarterly, 34(2): 159-170.
  • 辻大介, 2021,「ネット社会における世論形成の「分断」」,『マス・コミュニケーション研究』99号: 3-13.