論文「インターネットでのニュース接触と排外主義的態度の極性化」

北村智さんとの共著論文が公刊されました。ジャーナルの奥付は9月25日発行になっていますが、何か事情があったようで、掲載誌が送られてきたのは10月下旬です。

ネット利用による態度・意見の極性化(polarization)、世論の分極化(bi-polarization)については、現在、国内外で実証研究が進められていますが、実験研究に比べて調査(サーベイ)データを用いた研究は少なく、とりわけ日本では本研究も含めてまだ数例といった状況にあります。

また、海外の研究事例も含め、極性化・分極化の度合いを尺度化するために、ほぼデファクト・スタンダードになっている手法――「折り返し folding」尺度法――には大きな問題があり、折り返し尺度では必ずしも極性化・分極化を適切に測定することができません。

本論文では、その問題点を理論的に、かつ調査データから実証的に明らかにするとともに、より適切な方法論として分位点回帰(quantile regression)の応用を提案するものです。

もっとも、因果(の向き)の同定にまでは踏みこめておらず、今後の課題として残されてはいるのですが、ネット利用による極性化効果の因果推定を行なった先行諸研究でも、おしなべて上記の折り返し尺度が採用されているため、そこから導きだされた結論・知見には、妥当性に疑問符がつきます。その方法論的軌道修正を図るのが、本論文の大きな目的のひとつです。

(※以下は論文の要旨です: » PDF掲載サイト

インターネットでのニュース接触と排外主義的態度の極性化
―― 日本とアメリカの比較分析を交えた調査データからの検証

辻大介・北村智, 2018, 『情報通信学会誌』36巻2号(通巻127号), pp.99-109.

1. 問題の所在と背景――排外主義をめぐって
2. インターネットと態度・意見の「極性化」
3. 調査データによる極性化の分析方法
4. 分析に用いる調査データと変数
5. 分析結果
6. 知見の要点と今後の課題
注 / 文献 / Abstract

要旨

 インターネット上では、従来のマスメディア中心型の環境よりも、情報・ニュースの選択的接触が生じやすく、それによって人びとの意見の極性化が生じ、世論や社会の分断を招くのではないかという懸念が、多くの研究者や評論家から表明されている。本稿では、日本の「ネット右翼」やアメリカの“Alt-Right”に見られるようなネット上の排外主義に着目しつつ、2016年に日本とアメリカで実施したウェブ調査のデータから、ネットでのニュース接触が排外的態度の極性化(二極分化)傾向との連関について検証する。分位点回帰分析の結果、日本ではPCを用いたネットでのニュース接触頻度がユーザの排外的態度の二極化傾向と有意に連関していたが、アメリカではむしろ専ら反排外的な方向のみに変化させることが確認された。このことは、ネットにおける態度・意見の極性化の生起が、社会・政治・文化的コンテクストによって左右されることを示唆している。

Abstract

Many scholars and journalists point out the possibility that the Internet expands the divide in public opinion and in our society by causing polarization of people’s opinions about political issues, because selective exposure to news and civic information is more likely to occur on the Internet than in the mass-media-centered environment that was the norm in the past. In this study, turning attention to cyber-racism such as “Alt-Right” in the U.S. or “Netto-uyoku” in Japan, we examined the relations between polarization of xenophobic attitudes and frequencies of exposure to online news via using PCs/smartphones, based on the data from online questionnaire surveys conducted in the U.S. and Japan in 2016. The results of quantile regression analyses showed that in Japan exposure to online news via PCs extended significantly the polarization of users’ attitudes, whereas in the U.S. it shifted the attitudes uniformly toward an anti-xenophobic direction. These findings suggest that the occurrence of opinion polarization on the Internet is influenced by social, political and cultural contexts.

Daisuke TSUJI and Satoshi KITAMURA, 2018,
Exposure to online news and polarization of xenophobic attitudes:
A quantitative analysis of survey data in Japan and the U.S.

Journal of Information & Communication Research, Vol.36-No.2, pp.99-109.